4. 『時祷書』 1508年

Hore dive virginis Marie sedin veru[m] usum Romanu[m].    Paris, Thielman Kerver, 1508.    8vo., printed on vellum.    Bohatta 856.

 『時祷書』は、一般のキリスト教信者のために編まれた祈祷書。一日七回の定時課の祈祷文や聖歌、死者への祈りなど、さまざまな祈祷文が含まれ、巻頭には聖人の記念日を記した暦が置かれています。中世末期にこの『時祷書』が流行すると、彩色豊かな細密画を含む華麗な写本が好を競って製作されました。十五世紀末にも優れた写本作品の数々が産み出されていますが、初期の印刷本としても『時祷書』は数多く出版されています。これらは高価な写本に対する一種の廉価版であり、中世的な香りをそのまま残すものとなっています。

 展示本は紙ではなく、ヴェラムに印刷されたもの。中国で発明された紙がアラビアをへて、スペインに伝えられたのは十二世紀半ばのことでしたが、紙の生産は中世ヨーロッパでさほど普及せず、ヴェラム(羊皮紙)が書写材料として使われ続けました。凹凸のある紙に比べ、極めて滑らかな表面をもつヴェラ.ムは逆に、印刷術にとっては扱いにくい素材であるものの、初期の印刷本の中には『時祷書』のようにあえて高価なヴェラムを用いたものが少なくありません。これは明らかに写本の美観を再現しようとした試みです。

 パリではこのような保守的デザインの『時祷書』が連綿と出版されていましたが、ジョフロワ・トーリーの登場とともに画期的な変化があらわれます。1525年以降の彼の『時祷書』に見られる新風は、次の『万華園』に要約されています。


時祷書
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