5. トーリー 『万華園』 1529年

万華園 TORY,Geoffroy.    Champ fleury.    Au quel est contenu lart & science de la deue & Vraye proportio[n] des lettres attiques, quo dit autreme[n]t lettre antiques, & vulgairement lettres romaines proportionnees selon le corps & visage humain.    Paris, Geoffroy Tory & Gilles Gourmont, 1529.    8vo.    Mortimer 524.

 十六世紀中葉のパリ刊本は、当時の印刷術が一つの頂点にあった証しといえるでしょう。トーリーの『万華園』はその優れた美的水準をしめす傑作です。ブルージェ出身のトーリーは、この黄金時代の少なくとも中心的人物の一人であり、その活字や装飾は当時の印刷・出版に大きな影響を及ぼしています。

 1529年に刊行されたこの『万華園』は三部から構成され「フランス語の秩序」を論じた第一部、「アッティカ文字(ローマン体)の創造」と「その意匠」を取り上げた第二・三部からなりますが、論旨は整然というにはほど遠く、フランス語に関する考察と大文字のデザイン論とが潭然とした著作です。本書のタイトル頁に見られる、トーリーの「こわれがめ」の商標は、1499年ヴェネツィアのアルドゥス・マヌティウスが刊行した『ポリフィロの夢』の挿画のひとつにもとづく、と指摘されています。実際トーリーがパリの印刷本にもたらした意匠は、当時のイタリア刊本の影響が色濃く見られるものであり、『万華園』中の木版飾り枠にもこれは伺えますが、しかしトーリーが単なる模倣にとどまらず、洗練を重ねた新たなスタイルを産み出していることは注目すべきでしょう。


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