1455年頃 マインツ刊
旧約聖書より「雅歌」 羊皮紙刷り複製1枚
A leaf from The Gutenberg Bible.(facsimile)
Biblia latina, 42 lines. Canticum Canticorum Salomonis.
(from the Old Testament.)
Mainz: Johannes Gutenberg & Peter Schoeffer, ca.1455.
活版印刷術の発明者として知られるヨハネス・グーテンベルク(ca.1400~1468)は、1455年頃、活版印刷技術を完成させ、本書を刊行しました。11.「ラテン語聖書」と比較すると、初期書物は写本をコピーしたかのように、その体裁を模して作製されています。そのため、グーテンベルク聖書から1500年までに刊行された初期書物を、インキュナブラ(揺籃期本)と呼び、1501年以降の書物と学問上区別しています。
1472年 マインツ刊 羊皮紙刷り零葉一枚
Schoeffer, Peter(printer)
A leaf from The Decretum of Gratian.
Mainz: Peter Schoeffer, 1472.
グーテンベルクの後継者であるペーター・シェファー(Peter Schoeffer,ca.1449~1502)が1472年8月13日にマインツで印行したグラティアヌス「教令集」の羊皮紙に刷られた零葉。二段組の本文を囲むように注釈部分を配したレイアウトは、赤や青の頭文字と共に見事な調和を漂わせており、シェファーが卓越した書物デザイナーであったことをあらためて感じさせる揺籃期印刷本の傑作です。
1478年 ニュルンベルク刊
Koberger Bible.
Biblia Latina.
Nuremberg: Anton Koberger, 1478.
アントン・コーベルガー(1440~1513)は、1470年代初頭、ニュルンベルクに印刷所を開設しました。彼は、聖書を中心に神学や年代記などの大型本を数多く出版し、引退するまでに236点もの書物を刊行しました。代表的な書にコーベルガー聖書と呼ばれる本書「ラテン語聖書」と「ドイツ語聖書」、「ニュルンベルク年代記」等があります。
彼の工房では常時100人の植字工と印刷工が24台の印刷機を稼動、その上ヨーロッパの主だった都市に販売代理人を置き、ヨーロッパ全土に販路を拡大していったのです。コーベルガーは生涯に15点の聖書を出版しました。本書は第4番目のラテン語聖書です。写本時代の文字を模してデザインされた端正なゴシック体の活字をご覧下さい。
今回の展示では、11. 「ラテン語聖書」旧約聖書より「エレミヤ書」第10章(写本)および12. グーテンベルク印行「42行聖書」旧約聖書より「雅歌」と同じ部分を交互にご覧いただきます。
1508年 パリ刊
Book of Hours: Hore dive virginis Marie sedin veru usum Romanu cum allis multis folio sequeti notatis: una cum figuris apocalipsis post figuras biblie recenter insertis.
Paris: Thielman Kerver, 1508.
16世紀初頭、印刷者として名を馳せたパリのティールマン・ケルヴェールの実に心の行き届いた作品。ローマ風の丸文字で羊皮紙に印刷された稀少なもので、赤や青で彩色されたイニシャルや、三方金、金で型押しされた16世紀のモロッコ革で装丁されています。
15世紀末から16世紀初頭にかけて集中して作られた、羊皮紙に金属凸版による挿絵で装飾された本書はインキュナブラと同様、中世末の写本をもとに作られています(10.参照)。
1529年 パリ刊
Tory, Geofroy
Champ fleury. Au quel est contenu Lart & Science de la deue & vraye Proportio des Lettres Attiques, quo dit autreme[n]t Letters Antiques, & vulgairement Lettres Romaines proportionnees selon le Corp & Visage humain.
Paris: par Maistre Geofroy Tory, 1529.
トーリィは芸術的完成度の高い仕事と、本書によって知られている16世紀のパリの印刷者で、エティエンヌによって使用された優美な古典体文字をデザインしたとされています。
本書はフランスにおける文字体と正字法を当時の科学と技術に基づいて完全に改革し、ゴシック様式から新しい古典様式へと移行させました。こうして創られた新しい文字体は18世紀の終わり近くまで使用され、フランス語の表記を一躍進歩させたのです。
美しい文字を書く基本となり、以後の活字デザインの基礎となった本書は、書物史においても大変貴重な一冊です。
1751~80年 パリ刊 全35巻(本巻17巻、補巻4巻、図版12巻、索引2巻)
Diderot et D'Alembert
Encyclopedie ou Dictionnaire raisonne des sciences, des arts des metiers.
Paris: Briasson, David, Le Breton, Durand, 1751~1780.
35 vols.
1751年に第1巻が刊行されてから度重なる弾圧や困難を乗り越え、全35巻が完成をみるまで実に30年に及ぶ膨大な大事業となった本書は、イギリスで刊行されたチェンバースの「Cyclopedia」の翻訳構想より出発しました。この編集者となったディドロは、科学者のダランベールを共同編集者とし、総勢264人にものぼる知識人を動員しました。このことが、すべての世代に渡る進歩思想の年輪の書を形成することとなりました。
本書は、ヨーロッパ全土に行きわたり、啓蒙思想の普及と共に各地における百科事典の編纂事業を触発しました。
本展示では、活字、印刷、製紙など書籍製作に関する図版を拡大してご覧いただきます。