西洋の日本観

2. トマス・アクィナス『ぺトルス・ロンバルドゥス[命題集]第三巻註解』 1476年

THOMAS AQUINAS. Tertium scritium [super Sententarum]. Cologne Johanann Koelhoff, 1476. / Folio, bound in contemporary blind-stamped calf over wooden boards, with a five-link chain riveted througgh the top edge of the lower cover. HC*1479; BMC1220; Goff T-166.


トマス・アクィナス『ぺトルス・ロンバルドゥス[命題集]第三巻註解』 1476年トマス・アクィナス『ぺトルス・ロンバルドゥス[命題集]第三巻註解』 1476年


 ペトルス・ロンバルドゥスが編纂した『命題集』四巻は、神学の教義総覧として、中世の大学の学芸課程では聖書とならぶ必須のテキストでした。そしてこれについての講義を行うことが新人教師の義務となっていました。
 スコラ神学を大成したトマス・アクィナスは、1254年パリ大学で命題集講師に任命されています。この時の講義にもとづく『命題集』の註解は、彼の最初の体系的著作であり、後年の『神学大全』などとならぶ大著です。
 十五世紀には、その膨大な分量のためついにトマスの註解全巻を刊行した印刷者はなく、四巻中最初に活字となったのは第四巻(マインツ、ハインリヒ・シェーファー、1469年)、このケルホフが刊行した第三巻(1476年)はそれに続くものです。第一・二巻はケルンのクヴェンテルが1480年から翌年にかけて印行しています。ケルンのヨハン・ケルホフは折丁記号をつけた最初の印刷者としてしられ、本書も約三分の一に印刷されています。彼の刊本は九十点以上が記録されており、クヴェンテルについで多産かつ重要なケルンの印刷者に数えられます。
 展示本は同時代の製本。ドイツの僧院で用いられていた典型的な様式で、空押し模様を施された堅牢な牛革装です。地にはタイトルが手書きで大書され、裏表紙の上方には鉄の鎖が取りつけられています。中世末期から近代初期にかけての図書館では、貴重な書籍が持ち去られるのを防ぐため、このような鎖で書物を固定することがありました。また現在のように書物を立ててならべず、横に寝かせて保管することも多く、そのような本は展示本のように、背ではなく地にタイトルを書いて判別に用いています。この種の鎖はのちに多くが取り去られていますが、「鎖に繋がれた本」は当時の本のありかたを今に彷佛とさせるものです。